銀の姫
長曾我部元親という男はふざけた存在だと思う。
国主でありながら海賊行為にふけり、下らぬガラクタとしか思えぬ巨大兵器造りに没頭し、部下を仲間と呼び馴れ合いを善しとする。
およそ己には理解できない異質な存在。
否、異質などではない。
阿呆だから理解できぬのだ。

「ひでえ言い様だな」
縁側に横たわり阿呆とのたまった己に、長曾我部は怒るでもなく苦笑するに止まった。
大らか、と言えば聞こえは良いが、結局のところ外聞がないだけではないかと思う。国主としての面子もないのか。
「そんなことはねえよ」
つらつらと貶す言葉ばかりを発する己を、ゆっくりと起き上がった長曾我部は一途に見つめる。
「これでも傷ついてるぜ。阿呆だの、外聞がないだの」
「本当のことであろう」
「ひでぇ…」
苦く笑いながらもどこか楽しそうな様子だ。何が楽しいのかと思うが、整った顔がほころぶ様は見る価値があるとも思う。
そう、この男はやたらと整った姿をしているのだ。

日を受けて光る銀色の髪。
片方を眼帯で覆いながらも美しいとわかる顔立ち。
均整な肢体。

これで粗野な立ち居振る舞いさえ直れば、と幾度思ったことか。
勿体無い、と思わず息をついた。
「何だよ」
呆れられるようなことしたか、と顔をしかめる海の向こうの島の国主に歩み寄る。縁側に腰を下ろした姿を見下ろし、その髪に手を触れた。
「元就?」
「ほんに、勿体無い」
ゆっくりと顔を下ろし口を吸う。
一瞬の触れ合いを、陶酔した様子で長曾我部は受け入れた。
「そなたが姫のままであれば、可愛がってやったものを」
遠い記憶の片隅を埋める美しい姫君。
その姿を思い出す。
「今は、駄目か?」
持ち上げられた両腕が己の肩に触れる。懇願するように見上げる顔に、あの頃と変わらぬ気弱さを見出す。
「元就、今の俺は嫌いか?」
「愚かな…」
望まれるまま再び口を吸い、柔らかな髪を梳いてやる。
動作は荒くなったし言動も些か下品になった。
けれどこういう所作から思い出されるかつての姿。
それを見るたびに思い知る。

「今も昔も、そなたは我の愛しき姫よ」



END


就親、になってますか?
エイプリルフール限定私なりに頑張った就親話…だったりします。



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